会議用レポート — 宿泊旅行統計の読み解き方

宿泊旅行統計調査の読み解き方

マーケティング協議会 定例会議資料

1. 宿泊旅行統計調査とは何か

調査の概要

宿泊旅行統計調査は、観光庁が毎月実施する日本最大規模の宿泊動向調査である。

項目 内容
実施主体 国土交通省 観光庁
調査頻度 毎月(速報:翌月中旬、確報:翌々月)
調査対象 従業者数10人以上の全施設 + 10人未満のサンプル施設
対象施設数 約5万施設(全国)
主要指標 延べ宿泊者数、実宿泊者数、外国人宿泊者数
地理粒度 47都道府県別
分類軸 施設タイプ(6種)、施設規模(4区分)、来訪者属性(県内/県外/外国人)、目的(観光/ビジネス)

この統計でわかること・わからないこと

わかること

  • 全国の宿泊需要の「量」と「構造」
  • 地域間の需要格差
  • 外国人宿泊者の偏在度
  • 施設タイプ別の市場シェア
  • 月次の季節変動パターン
  • 観光目的 vs ビジネス目的の比率

わからないこと

  • 宿泊単価(ADR)・客室単価(RevPAR)
  • 稼働率(OCC)
  • 旅行者の国籍別内訳
  • 日帰り観光客の動向
  • 民泊(Airbnb等)の利用状況
  • 旅行者の満足度・リピート率
  • 観光消費額

留意点: この統計は「宿泊者数」という量的指標に特化しており、「観光の質」や「経済効果」を直接は測定できない。したがって、宿泊者数の増加 = 観光産業の成功、と短絡的に結論づけることは避けるべきである。


2. 全国の宿泊動向:何が起きているのか

延べ宿泊者数(全期間合計)

599,883,410

外国人比率(%)

27.1

観光目的比率(%)

49.4

県外客比率(%)

80.8

月次推移にみる構造変化

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読み解き: 国内宿泊者は安定的な季節パターンを繰り返す「ベースライン需要」であり、外国人宿泊者はその上に乗る「成長ドライバー」として機能している。外国人比率が全体の1割を超えた段階で、インバウンド動向が全体のトレンドに影響を与えるようになる。為替変動(円安)やビザ政策の変更がこの比率に直接作用する点は、政策立案上の留意事項である。


3. オーバーツーリズム:データから見える実態

オーバーツーリズムとは

定義: 観光客の増加が、住民の生活環境・文化的価値・自然環境・旅行者自身の体験品質に負の影響を及ぼしている状態。UNWTO(国連世界観光機関)は「持続可能な観光の対極」と位置づけている。

日本で顕在化している問題:

  • 京都の混雑(祇園・嵐山での住民の日常生活への支障)
  • 富士山の入山規制(2024年から通行料導入)
  • 鎌倉の江ノ電問題(観光客で地元住民が乗車困難)
  • 白川郷の交通渋滞・騒音問題
  • 大阪ミナミの路上飲酒・ゴミ問題

外国人集中度による定量評価

No Results

解釈の注意: 外国人比率だけではオーバーツーリズムの全貌は捉えられない。比率が低くても「特定エリアへの局所集中」がある場合(例: 広島の宮島、奈良公園)は実態として深刻な問題が生じうる。逆に、比率が高くても広域に分散している場合は負荷が分散される。本データは「マクロのアラート」として活用し、ミクロの実態は現地調査で補完すべきである。


4. 構造課題の整理

4-1. 地域偏在の固定化

上位5都道府県シェア(%)

42.2

上位10都道府県シェア(%)

61.2

仮説: 地域偏在は「交通アクセス」「認知度」「インフラ整備」の3因子で構造的に固定化されている。短期的な広告施策では解消困難であり、交通インフラ投資(LCC路線、高速道路、二次交通)との連動が不可欠。ただし、過度な分散化はスケールメリットの喪失につながるため、「選択と集中」のバランスが求められる。

4-2. 施設タイプの二極化

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二極化: ビジネスホテル一強の構造は、日本の宿泊市場が「効率性・コスパ」を最優先するビジネス客に依存していることの裏返しである。旅館セクターの縮小は日本文化の観光資源としての持続可能性に影響し、簡易宿所(ゲストハウス等)の成長はインバウンド需要を反映。「量のビジネスホテル」と「質の旅館・ブティックホテル」の共存モデルが今後の業界課題。

4-3. 観光目的 vs ビジネス目的のバランス

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季節の読み解き: 観光目的は夏季・年末年始に集中し季節変動が激しい。ビジネス目的は通年で安定的だが、年末年始・GWに落ち込む。両者の合成が全体のパターンを形成する。リモートワーク普及によるビジネス宿泊の構造変化(出張削減 vs ワーケーション増)が今後の注目点。


5. これをどう捉えていくべきか:5つの視座


6. 次回会議に向けたアクションアイテム

推奨アクション
# アクション 担当候補 期限目安
1 JNTO国籍別データの取得・統合 データチーム 2週間
2 上位5都道府県の詳細分析レポート作成 分析チーム 3週間
3 オーバーツーリズム対策の先行事例調査(京都・鎌倉・バルセロナ) リサーチチーム 3週間
4 STRデータ購入の費用対効果検討 マネジメント 1ヶ月
5 地方分散化のターゲット都道府県選定(5県) 戦略チーム 1ヶ月
6 旅館セクター再活性化ワーキンググループ発足 全体 次回会議

7. 参考:データの読み方ガイド


宿泊旅行統計調査 分析レポート | データソース: 国土交通省 観光庁 | 作成: Evidence BI